植物エキスは成分名でなく植物名が記載される
オーガニック化粧品には、主として植物原料が用いられます。一つの植物には何百もの成分が内包されているため、すべての成分を書き出すことは不可能です。このため合成化粧品の表示とは異なり、オーガニック化粧品の成分表示には成分名ではなく「ローズマリー」のように植物名が表記されます。たとえば植物エキスを3つ配合すれば、植物名が3つ並びます。なんだ、成分はたった3つか、と思わないでください。成分の数でいえば、少なくとも数百種類にはなるのです。そうした消費者の心理を見透かしてか、植物エキスを20も30も配合したオーガニック化粧品を散見することがあります。はたして数が多ければ、期待される効果も大きいといえるのでしょうか。
抗酸化成分が美容効果を発揮する
美容植物のエキスには複合的な抗酸化成分が含まれています。このため一つの植物だけでも、保湿、くすみ予防、炎症を抑える、肌を再生するなど、さまざまな働きをするものがあります。植物は自らの身を守るため、ビタミン類、タンニン類、フラボノイド類、芳香成分などの抗酸化成分を多く蓄えていて、化粧品に配合すればそれぞれが美容効果を発揮します。たとえば「若返りのハーブ」と呼ばれるローズマリーは、芳香成分、フラボノイド類、タンニン類など、じつに数多くの抗酸化成分を含んでいます。しかも明らかになっているのはその一部にすぎず、いまだ未解明の成分も多数存在するといわれています。
ローズマリーに含有される成分
ローズマリーというハーブの効能は、記憶力を高める効果、注意力や集中力を高め、精神を安定させる効果、老化を防ぐ効果、リウマチや関節炎の症状を緩和する効果、肌を引き締める効果などがあります。その芳香成分は、単によい香りがするというだけでなく、神経細胞や脳神経を刺激して生体防御作用を活性化させ、解毒作用も発揮します。毎年春になると花粉症で憂鬱になるという人には、ロズマリン酸が花粉症の改善にも役立ちます。代表的な成分はロズマリン酸のほか、カルノシン酸、ロスマノール、クロロゲン酸、ゲンクワニン、ルデオリン、カルノソール、カルノジック酸、ウルソール酸、オレアソール酸、ベルべノン、などがあり、数え上げればきりがありません。ロスマノールは非常に高い抗酸化力を示すことから、近世ヨーロッパで鮮魚を内陸部に運ぶとき、ローズマリーを添えて防腐効果をもたせ、鮮度を保ったといわれています。ルテオリンには、シミやくすみ、ソバカスを改善し、肝臓の解毒、アトピーやアレルギーの改善にも作用することが知られています。
植物エキスの配合は多ければよいのか
このようにローズマリーには有効成分が何百も含まれており、全部を書き出して表示することは困難です。まして植物エキスが5つも配合されれば、すべての成分名を表記することはとうてい不可能です。オーガニック化粧品の全成分表示では、成分名ではなく、単に植物名だけが記載されるのはこのためです。
では植物エキスを20種類も30種類も配合すれば効果効能はどうなるでしょうか。そこに含まれる成分は、おそらく数千をくだらない数になり、すごい効果を発揮しそうに思えますが、果たしてそうでしようか。残念ながらそうはならないと思います。なぜなら個々のエキスの濃度は、数が多くなるほど薄まり、植物エキスのもつ特徴が薄れてしまうからです。植物エキスは、それぞれがもつ性質や特性に着目して、効果がしっかり発揮される商品づくりが求められます。配合する種類が多くても、濃度がうすまってしまえば、効果や作用が乏しいものになり、あまり意味がないことになります。また植物アレルギーなどの反応がでた場合、どの成分が影響したのか特定することが難しくなります。植物エキスがもつ特性を生かし、濃度をしっかり確保して、効果や特徴が明確な商品こそがよい商品といえるでしょう。
ローズマリーの抗酸化作用
ローズマリーを化粧品に配合する目的は、SOD様活性による抗酸化作用、抗老化作用、製品自体の酸化防止効果を生かすことです。ローズマリーを使えば、防腐剤がなくてもすみます。通常に発生する活性酸素は、体内のスーパーオキシドジムスターゼという酵素によって分解・消去されますが、食品添加物、野菜の残留農薬、紫外線などによって活性酸素が大量に発生すると、酵素による分解・消去が追いつかず、皮ふの酸化ストレス、光老化、炎症および色素沈着の問題を引き起こします。ローズマリーエキスには、優れた活性酸素の消去作用が科学的に確認されています。
他のハーブエキスや植物エキスにも、さまざまな美容成分や抗酸化成分が含まれており、同様のことがいえます。どの植物エキスを使い、特徴をどう生かすかによって、効果の異なるオーガニック化粧品が誕生します。それは単にエキスの数ではなく、その特性や成分をどう生かすかの問題です。植物はたった一つでも、そこにはさまざまな成分が含まれていることを理解しておきましよう。
なお、妊娠中・授乳中のローズマリーの使用については、伝統的な古い文献では妊娠中の禁忌を示すものがありますが、近年の研究ではローズマリーのハーブ利用による有害性はとくに示されていません。ただしローズマリーの精油は、刺激が強い成分が含まれるので要注意です。医師の指示にしたがうことが大事です。